[イベントレポート]

ここまで来ているエンタープライズDevOps、必要なのは“信頼”の基盤

IBM Innovate 2014

2014年6月9日(月)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

アプリケーション開発環境などを開発・提供する米IBMのRational事業部は、年次イベント「Innovate 2014」を米フロリダ州オーランドで2014年6月1日から5日(現地時間)にかけて開催した。今回のテーマは「Innovate@Speed」。初日の基調講演では、DevOps(開発と運用の連携)が企業に浸透している事例と共に、「エンタープライズDevOpsの実現には“信頼”の基盤が必要だ」とのメッセージを強調。同社のPaaS(Platform as a Service)である「BlueMix」を前提に、アプリケーション開発・運用の新たな基盤が整ってきたことを印象づけた。

写真1:Innovate2014の基調講演に登壇したRational事業部のゼネラルマネジャー、Kristof Kloeckner氏
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 「信頼」――。Rational事業部のゼネラルマネジャーであるKristof Kloeckner氏はInnovate2014の基調講演で、この言葉を何度も繰り返し、その重要性を強調した。「(プログラミング)コードこそがイノベーションの源泉である。社会やビジネスにおけるすべての仕組みはコードが動かしているからだ。今日のアプリケーション開発ではスピードが不可欠だが、信頼の基盤なしにスピードは高められない」という。

 アプリケーション開発のスピードを高める仕組みがDevOpsであることは、最近のInnovateのメッセージからも明らかだ(関連記事『【IBM Innovate 2013】DevOpsに賭けるIBMの勝算』『開発と運用の溝を埋める米IBMの秘策「DevOps」~IBM Innovate 2012』)。では、なぜDecOpsの基盤として今回、信頼を強調するのか。

 それは、同社のクラウド環境としてIaaS(Infrastructure as a Service)の「SoftLayer」とPaaS(Platform as a Service)である「BlueMix」のそれぞれへの集中投資により、DevOpsのための技術的基盤が整い、今後はむしろ、その基盤を活用するための利用企業の取り組み姿勢など、これまでの開発方法や企業文化をいかに“破壊”できるかが重要だと判断しているからではないだろうか。

 実際、IBMはInnovate 2014の基調講演において、ベータ版として提供してきたBlueMixを6月末には正式版として提供すると発表。欧州やアジア、日本においても順次、正式版を投入する計画も明らかにした(関連記事『米IBM、PaaSの「BlueMix」を6月末には製品化、日欧などにも順次展開』。

開発のステークホルダだけでなく、利用者との信頼関係も不可欠に

 Kloeckner氏がいう信頼には、大きく2つの意味がある。1つは、アプリケーション開発に携わるステークホルダ間の信頼だ。プロジェクトオーナーや、プロジェクトリーダー、開発技術者、運用技術者などの間に相互の信頼感がなければ、DevOpsというスピード開発は成り立たない。特に、事業部門などビジネスの最前線にいるステークホルダとの信頼関係を強調する。「ソフトウェアは新しいビジネス創出のエンジンそのものであり、開発スピードの高速化はビジネスの最前線が求めているもの」(Kloeckner氏)だからだ。

 そのうえで、スピード化を図るには、そのためのフレームワークや自動化の仕組み、すなわちBlueMixを中心とした開発基盤が必要というわけだ。Kloeckner氏は、「従来の個別開発や人手による対応では、チームのサイロ化や情報の断片化が起こり、協力体制の構築を阻害していた」と指摘する。

写真2:DevOpsの実現には、スピードだけでなく“信頼”が必要とする
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  信頼のもう1つの意味は、アプリケーションの利用者であるエンドユーザーや社会との信頼、すなわちソフト品質の確保である。ソフトウェアが社会やビジネスを動かしているとすれば、その仕組みが「安心・安全だと感じられるだけの信頼性がなければ、利用されない」(Kloeckner氏)ためだ。

 組み込み分野におけるアジャイル開発をRationalは「Continuous Engineering」と呼んでいる。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代が訪れ、組み込みソフトの開発が多くの企業にとって、これまでに以上に競争優位性を生み出すためのプロセスになってきた。このContinuous EngineeringにもDevOpsを適用する過程でBlueMixの土俵に利用企業を抱き込む戦略である。

 これら2つの信頼の重要性を訴えるために、Rationalが招いたゲストスピーカーが、フィンランドに拠点を置く電力発電事業会社Fortumで原子力発電技術担当マネジャーを務めるKristiina Soderholm氏である。

 同氏は、基調講演の最初に登壇し、「フクシマが電力業界を一変させた」と切り出した。その本意は、「新しい原子炉の開発はもとより、各種許認可を受けるための期間を短縮するためにもアジャイル開発は不可欠。そして最終目標である、社会が求める安全性を確保するためには、仕様変更に追随し、複雑化するシステムの完成度を検証できる仕組みが必要だ」という指摘である。

SOAの概念をクラウド上で実現するComposble Business

 BlueMixの文脈でIBMが打ち出す新たなキーワードに「Composable Business」がある(関連記事『【Impact2014レポート(前編)】「Composable Business」を提唱、PaaS使ったビッグデータ活用を強調』)。組み立て可能なビジネス、すなわち、必要な機能を組み合わせることで市場の変化に即応したビジネスを展開するという考え方だ。必要な機能の中核は当然、ソフトウェアやデータということだ。

 Composable Businessについて、Kloeckner氏は、「ソフトドリブンでビジネスを創り出すという考え方だ。リーンでアジャイルなテクノロジーを組織に広げ、自動化によってムダをなくし効率を高めて新しい価値を生み出す。ムダを排除できれば自信につながるし、柔軟かつ機敏に動ければ繰り返しによる経験値を高められる。これが経営スピードへとつながっていく」と説明する。

 そのうえで、「ただし、全く新しい考え方というわけでもない。かつて我々が取り組んだSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)を思い起こしてほしい。アプリケーションサーバーを立ち上げ、ソフトウェアのサービス化を図り、それらを再利用することで開発速度を高めた。こうした仕組みが必要だったように、Composable BusinessでもBlueMixという仕組みを使い、ビルディングブロックのアプローチを採る」と補足した。

 組み合わせ対象として、Innovate 2014でIBMが強調したのが、メインフレームを含む既存資産との連携である。

System of RecordとSystem of Engagementの架け橋に

 クラウドやDevOpsといえば、モバイルアプリケーションやデジタルマーケティングなど、「Systems of Engagement」と呼ばれる新規アプリケーションの開発基盤としてのイメージが強い。IBMもこれまでは、モバイルやビッグデータなどSystem of Engagement領域の重要性を訴えると共に、同分野で先行するベンチャー企業へのラブコールに努めてきた。

 しかし今回は、Systems of Engagementの対極にあるSystems of Recordの資産価値を強調。米IBMのクラウドプラットフォームサービス担当のゼネラルマネジャーであるSteve Robinson氏は、「BlueMixは、オープンであること、モバイルファーストであること、そしてエンタープライズグレードであることの3つの柱を掲げ開発してきた。エンタープライズグレードとは、オンプレミスとクラウドの架け橋になるという意味だ」と胸を張る。

 この自信の背景には、既存環境を対象にした仕組みが整備できてきたことがある。Innovate 2014では2つのソリューションを発表した。「Continuous Testing、Release and Development」と「Continuous Business Planning and Collaborative Deployment」だ。

 前者は、既存資産にアクセスするモバイルアプリケーションを開発する際に、メインフレームのトランザクション処理ソフトであるIMSやCICS、あるいは独SAP製アプリケーションに対する動作テストや、その後にソフトウェアをデプロイする機能を提供。後者は、従来型とクラウド型のそれぞれで作業するソフト技術者らに対し、開発要件や進捗状況などを共有し協調作業するためのコミュニケーション環境を提供する。

 オンプレミスとクラウドを組み合わせたユーザー事例として紹介されたのが、米カリフォルニア州の公共鉄道であるBART(Bay Area Rapid Transit)における車両管理システム「MaRIS(Maintenance and Reliability Information System)」のモバイルアプリケーションである。メインフレームで管理する車両の保守情報にアクセスする。

写真3:BlueMixによる効果を説明するBARTのCIOであるRavindra Misra氏(右)と開発を担当した米シンクロニィ・システムズのCEOであるSlavik Zorin氏(左)
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 BARTのCIOであるRavindra Misra氏は、「これだけモバイルが普及している中で、BARTのシステムとして我々はモバイルを一切利用していなかった。BlueMixを使いDevOpsに取り組むことで、素晴らしいシステムを短期間に構築できた」とする。開発を担当した米シンクロニィ・システムズのCEOであるSlavik Zorin氏によれば、「従来のやり方だと6カ月はかかる仕組みが、15日間で実現できた」という。

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