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[CIOのための「IT未来予測」将来を見据え、目前のITを評価せよ]

デジタルトランスフォーメーション(DX)による変革に向けて

2016年11月21日(月)大和 敏彦

インターネット革命によって始まったデジタル化によるビジネス変革は、さらに加速している。クラウド、IoTやAI、ブロックチェーンといった技術により、金融業界のFinTech、製造業界のIndustrie 4.0、Industrial Internetなど、次の大きな変革の波を迎えようとしている。これらの波の中で、成長や企業競争力を維持するために必要になるのが「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」である。

 「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」は2004年、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念である。すなわち「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という。企業におけるDXとは、既存ビジネスのデジタル化の推進や、アナログとデジタルの融合による生産性の向上やコスト削減、スピードの向上、さらには、それらを実現するための企業組織の変革を指す。

 前回、IT部門はビジネス部門の成長や競争力強化実現へのシフトが必要と指摘した。DXにおいては、自社内のIT活用である業務プロセスの強化や業務の置き換えから、ITによるビジネス補完や強化、そしてデジタルソリューションによる新ビジネスや変革の検討へと、取り組むべき対象は広がっていく。だが最も重要なことは、ビジネス変革である。自らのビジネスを変革していかなければ、競争力のあるデジタルソリューションによって他社に、そのビジネスを奪われてしまうかもしれない。

DXの体現者は米Amazon.com

 よく知られている例が、本の販売だ。オンラインによる書籍購入の広がりによって、本のビジネスは大きく変わった。米Amazon.comが始めたビジネスモデルは、インターネット上で本を、早く、簡単に、安く購入できるようにした。当初は、大手書店チェーン同様の品揃えや価格ながら、購入の便利さが差異化要因だった。

 それがデジタルソリューションでしか実現できない検索や品揃え、さらには顧客情報や購入履歴を使ったリコメンデーションといった各種サービスへと進化した。本の“販売プロセス”を全く変えてしまったのだ。さらに、コンテンツ(中身)をデジタル化した電子書籍を普及させることによって、紙でできた商品からデジタルコンテンツへと商品自体をも変革してしまった。電子書籍では、本を届けるという配送プロセスを不要にした。

 このようなデジタル化による変革は、市場を変えていき、変わらないと信じられていた顧客の興味や顧客との関係も大きく変えていく。一方で既存の手法は急速に陳腐化していく。デジタル化の波によって既存の産業構造が破壊される“デジタルディスラプション(Digital Disruption)が引き起こされたのである。デジタルディスラプションを起こせる企業は少ないが、このような変革に対応できるよう準備することは、すべての企業に必要だ。

 顧客との新しい関係の構築に成功すれば、その成功したサービスモデルを他分野に応用し、さらに新しいビジネスへと拡大できる。実際にAmazonは今や、本だけでなく様々な商品を扱うEC(Electric Commerce)や、ビデオ配信などのサービスを展開し成長を続けている。加えて、サービスを基に顧客との関係をさらに強固なものにする会員モデルの構築も可能になる。Amazonの「Amazon Prime」の会員は、年会費3200円(米国では月10.99ドル)で様々なサービスを受けられる。

 Amazonの例は、デジタル化によってビジネスを成長させるモデルが実現可能なことを示している。デジタル化で新たな顧客価値を実現し、それをビジネスとして成長させる。次に、そのビジネスをキラーコンテンツ(アプリケーション)に、仕組みを水平展開する。その過程で顧客を囲い込み、会員組織を立ち上げることによって、さらなる顧客との関係を構築するのだ。

 そこでは、デジタルテクノロジーによる変革、すなわちDXこそが、デジタル化の世界で競争力を持つためのキーになる。DXができない企業は、デジタルディスラクションによって価値を失い、新興企業や変革に成功した企業との競争に負けていくことになる。そしてDXは、変革への対応のためだけでなく、企業の価値や業績を上げていくためにも必要である。

価値や業績へのデジタル化の影響には“法則”がある

 DXの実践例としてIT業界のトップ企業を見てみたい。IT企業は、デジタル社会を牽引するとともに、生き残り向けて自らのデジタル化にも取り組んでいるからだ。Apple、Alphabet(Google)、Microsoftの米IT企業3社は、株価時価総額でも世界のトップレベル(1位はAppleの約63兆円)を誇り、いずれも20~40%の営業利益率を誇る。それに比べて、日本の製造業はトップのトヨタが株価時価総額は約20兆円、営業利益率は約10%である。価値や業績の差にもデジタル化が影響している。

 デジタル化が企業の価値や業績に影響を与える原因となる“法則”がいくつかある。1つは、ブライアン・アーサー教授が提唱した「収益逓増(ていぞう)」と呼ばれる法則だ。生産規模が倍になると生産効率が高まり生産量は倍以上になるとする。従来型のビジネスは、規模の拡大を図ると、部品の調達や、工場の増設、物流の強化、販売チャネルの増強など複雑性が増し「収益逓減(ていげん)」の法則により、投資効率が下がる。

 ところが、ソフトウェアやデジタルサービスは、損益分岐点を一度、越えてしまうと後は追加コストがあまり増えないため、利益率は上がる。ユーザーが増えると、保守のための人件費やシステム関連費などが固定費として発生するが、これらはユーザー数に比例して増えるわけではない。サーバー性能の向上やクラウド化など、技術の進展によって同じ処理にかかるシステム費は年々下がっているので、ユーザーが増えるほど、固定費の割合は減り、利益率が押し上げられる。

 さらにWebサービスや、Webコンテンツ、モバイルアプリケーションは、材料や仕入れ費用などの変動費がかからない。有料ユーザーが増えれば、そのほとんどが利益になる。会員サービスモデルも同様だ。会費がそのまま商品購買やサービス使用に結びつかないので、利益の源泉となる。Amazonの場合、米国だけで4900万人のAmazon Prime会員がいると言われている。この会費だけでも約65億ドルの収入になる。

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