[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]

企業活動にとってのITの役割とは何か【第2回】

2017年9月22日(金)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)

企業の基幹システムとして最も利用されているSAPから従来のR3の後継として全く新しいS/4HANAのリリースやデジタル化というブームの到来により、企業における基幹システムの今後の在り方やITの位置づけが混迷の様相を呈してきている。本連載では基幹システムとデジタル化の関係を明らかにし、今後の基幹システムをどのように考えていくべきかを検討していく。第2回目は企業の活動にとってのITの役割は何かということを整理し、今後のITを検討する上でのフレームワークを策定した。

 ERPパッケージが出始めたころには、自社のシステムのもつ差別化機能をERPパッケージの非差別化機能に置き換えることは自社の競争力の源泉を失うということで、ネガティブな反応が存在していた。企業に対してERPパッケージが与える差別化機能は、個々の活動単位に対するシステム機能ではなく、各活動のデータ連携機能であり、このデータ連携機能によりERPパッケージ非導入企業に対して競争優位に導いた可能性も高い。しかし、ERPパッケージの普及が進んでいることや企業における基幹システムの充実により、すでにERPパッケージによる基幹システムの差別化機能はコモディティ化が進展し、非差別化特性となってきているのだ。

基幹システムのレガシー化

 2012年のJUASの統計では基幹システムの平均利用期間は14.6年となっており、さらに利用期間は伸びている傾向にある。利用開始から15年過ぎたあたりで、基幹システムと現状業務との差異が大きくなる、いわゆるレガシー化が生じてくるということだろう。

(図5)企業における基幹系システムの利用時間(出所:日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2012」)
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 ERPパッケージの代表格であるSAPのR/3がリリースされたのが、1992年、いまから25年前になる。2004年~2006年にかけてECC6.0がリリースされたが基本機能は変更されていない。つまり、ECC6.0を含めた当初のR/3もレガシー化が進んできているといえる。

 リリースから比例して実際の導入が増加はしていると仮定すると、R/3リリースから30年経つ2022年ごろには導入企業の半数が15年を超え、老朽化更新が始まることが想定される。ソフトウェア(特にR/3の)の第3者保守サービスを提供しているリミニストリートの調査レポートでは、現行のERPを継続利用する企業は89%となっているが、これは、現時点ではECC6.0のリニューアルには時期尚早と考えている企業も多いからではないかと思われる。しかし、このような第3者保守サービスを提供する企業の出現はERPが成熟期を迎えてきている象徴なのだろう。(図6)

(図6)SAP売上高推移(出所:みずほ産業調査Vol.50)
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 ECC6.0とS/4HANAの保守期間が2025年まで延長されたことから、現時点(2017年下期)から計算すると、8.5年後まで、現行のSAPシステム(ECC6.0&S/4HANA)を利用することが可能になった。しかし、前述の2022年の老朽化更新に加えて、ECC6.0及びS/4HAHAの保守期限も迫ってくることから、R/3から、S/4HANAの最新バージョンや次期バージョンもしくは他のパッケージに移行するユーザーが急激に増加することが予想される。

 R/3の導入ベンダも限られていることから、余裕をもって移行作業を進めるためには実際の移行作業を2022年から2024年の間に実施するとしても2022年までに移行の進め方を決定するべきだろう。これらのことを考慮すると、どのような対応にするかを決定するまでの猶予期間は4.5年ということになる。デジタル化が急速に進展している現在の環境において、今が猶予期間を含めた8.5年をどう過ごすか(S/4HANAへの移行の対応方法と対応時期)を検討するタイミングだといえる。(図7)

(図7)ロードマップの考え方
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1.S/4HANAへの移行の対応方法のオプション

① 現行ECC6.0システムを単なるマイグレーションでS/4HANAに移行し、余裕をもって、その後の対応策を選んで実施する。マイグレーションとしては、ユーザーへの影響を極力抑えるためにECC6.0のDBをHANADBに移行し、その後S/4へ移行するパターンとECC6.0からS/4HANAに乗り換えるパターンがあり、企業の置かれている状況に応じて、パターンの選択をするべきだ。しかし、マイグレーションにおいてもそれなりの費用が発生することやマイグレーション前後で多少の改善はみられるにしても基本的にシステム機能は変わらないことが、正直経営から見て魅力的に見えない。

② 単なるマイグレーションだけでなく、現行ECC6.0 システムで発生している課題に関しては対応する。①の単純な移行に加えて、現行課題の対応を行うため、経営に対して移行のメリットを提案することが可能になる。しかし、対応する課題の難易度によっては予算が膨らんでしまう場合や業務への改善効果の低い課題の対応しかできず、ユーザーの満足度が得られない可能性もある。

③ 新基幹システムとして再構築する。マイグレーションではなく、現在の企業の状況に応じて、再設計、再構築を実施することで、将来の企業活動を反映することが可能になる。改善効果や満足度を向上させる可能性もあるが、反面将来の方向性が現在の延長線上にしかない場合には現行基幹システムと大きな違いがおこらないこともありうる

④ 現在のシステムを継続利用する。2025年以降も現行基幹システムを継続利用するのであれば、前述の第3者保守を利用して、今後発生する保守費用を削減することが可能になる。

2.S/4HANAへの移行時期のオプション

この8.5年間をどのように過ごすかによっても移行時期の過ごし方に違いがでてくる。

① 2021年までにS/4HANAへの移行を進め、2025年以降の移行の影響を極力抑える。S/4HANAで拡張される差別化機能を早期に享受できる。

② 2022年以降にS/4HANAへの移行を進める。他社に対して非差別化機能が欠落しないようにはなる可能性は高いが、差別化機能としては利用できない可能性が高い。

③ 2025年以降にS/4HANAへの移行を進める。他社に対して非差別化機能が欠落する可能性もあるが、それを踏まえたうえで決定する。
(図6)

 第1回にも書いたがデジタル化の急速な発展に追従していくためには、企業における基幹システムも変わっていく必要がある。デジタル化が企業活動にそして基幹システムへ影響を与えるかを考慮した上で、今後のどのようなロードマップを描くかを考えなければならない。次回はデジタル化と基幹システムの関係を考えてみたい。


筆者プロフィール
青柳 行浩(あおやぎ・ゆきひろ)

NTTデータ グローバルショリューションズ(NTTデータGSL)ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長。大手システム開発会社から外資系コンサルティング会社を経て、現職。戦略・システム化構想から経営・業務改革まで幅広く支援。現在は業務改革の観点(経営管理、SCMなど)からIT(特にSAP関連)戦略やシステム化構想と導入展開支援を実施している。

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