[市場動向]

超伝導素子で量子アニーリングマシンを高速化、NECが優位性をアピール

2019年1月16日(水)日川 佳三(IT Leaders編集部)

NECは2019年1月16日、会見を開き、早ければ2023年にも実用化する量子アニーリングマシンの開発状況について説明した。NECが開発した超伝導パラメトロン素子の強みとして、量子の重ね合わせ状態が持続するコヒーレンス時間を長く保てる点などをアピールしている。「コヒーレンシ時間の目標は1ミリ秒。これだけあれば10の50乗の試行ができる」(NEC)としている。

 NECは、無数にある選択肢の中から最適な組み合わせを導出する「組み合わせ最適化」問題を高速に解くための量子アニーリングマシンを開発している(関連記事NEC、量子アニーリングマシンを2023年までに実用化、量子状態時間を向上)。NECの特徴の1つは、アニーリングマシンの実現方法として、日立製作所や富士通のようなデジタル回路による方式ではなく、カナダのD-Wave Systemsのような専用の超伝導量子回路を採用していることである(図1)。

図1:量子コンピュータ技術の分類。NECは、超伝導量子回路を用いたアニーリングマシンを開発している(出典:NEC)図1:量子コンピュータ技術の分類。NECは、超伝導量子回路を用いたアニーリングマシンを開発している(出典:NEC)
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 NECは、量子アニーリングマシンの性能を高めるために、超電導パラメトロン素子を使う(関連記事NECなど、量子アニーリングマシンの要素技術を開発するプロジェクトを開始写真1)。超電導パラメトロン素子であれば、量子アニーリングマシンの性能に関する4つのパラメータ(量子ビット数、量子重ね合わせ時間=コヒーレンシ時間、結合度、解像度)を同時に解決できる、とNECはアピールする。

写真1:超伝導パラメトロン素子の外観写真1:超伝導パラメトロン素子の外観
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 特に注力するポイントが、量子の重ね合わせ状態が持続する時間(量子コヒーレンシ時間)である(図2)。超伝導パラメトロン素子は、外部から大きなエネルギーを与えて量子状態を作ることで、ノイズの影響を最小限にとどめている。NECでは、2023年の実用化の段階で1ミリ秒というコヒーレンシ時間を目標に据えている。「1ミリ秒をキープできれば、この間に10の50乗の試行ができる」(NEC 中央研究所 理事の中村祐一氏、写真2)としている。

図2:超伝導パラメトロン素子のメリット(出典:NEC)図2:超伝導パラメトロン素子のメリット(出典:NEC)
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写真2:NEC 中央研究所 理事の中村祐一氏写真2:NEC 中央研究所 理事の中村祐一氏
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 量子回路を使う場合、処理を終えるまで量子の重ね合わせ状態が持続しないと、計算機として成り立たない。量子アニーリングマシンでは、量子の重ね合わせ状態が持続している間は量子アニーリングで解を導き、これを過ぎた場合は古典的アニーリングの計算で解を導く。量子コヒーレンシ時間が長くなればなるほど、実際の問題解決にあたり、古典的アニーリングの時間を短くして量子アニーリングの時間を増やせる。

 NECはもともと、量子ゲート型の汎用量子コンピュータの研究開発を続けてきた。ここへきて量子アニーリングマシンの実用化が進んだことから、量子ゲート型のこれまでの研究を生かす形で、量子アニーリングマシンの開発に注力することにした。「量子ゲート型は、NEC社内ではなくオープンイノベーションの形で研究を進める。ゲート型の実用が始まるまでには10年以上かかる。現状のゲート型のコンピュータでできることは、現行の古典的なコンピュータでもできる」(中村氏)。

 会見では、早稲田大学教授の田中准氏も登壇し、超電導量子回路の先駆者ですでに量子アニーリングマシンを出荷しているカナダのD-Wave Systemsの事例などを紹介した。D-Wave Systemsのユーザー事例は、組み合わせ最適化、機械学習の最適化(特徴量の選択などに利用)、シミュレーション、の3つがある。

 組み合わせ最適化問題の事例の1つが、ドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)が取り組んだ、渋滞回避ルートを提案するアプリケーションである(図3)。特定のコースを運行する自動車418台の経路選択問題をD-Wave Systemsの量子アニーリングマシンで解いて、渋滞を緩和した。418台すべての自動車の最適化を同時に実施するには量子ビット数が足りなかったため、D-Wave Systemsが用意している問題分割ソルバー(Qbsolv)を使って解いた。

図3:D-Wave Systemsのユーザー事例の1つで、ドイツのVolkswagenが取り組んだ、渋滞回避ルートを提案するアプリケーション。特定のコースを運行する自動車418台の経路を選択して渋滞を緩和した(出典:早稲田大学)図3:D-Wave Systemsのユーザー事例の1つで、ドイツのVolkswagenが取り組んだ、渋滞回避ルートを提案するアプリケーション。特定のコースを運行する自動車418台の経路を選択して渋滞を緩和した(出典:早稲田大学)
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 デンソーと東北大学の事例では、工場内の無人配送車の移動をD-Wave Systemsの量子アニーリングマシンを使って最適化した。

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