社会人生活のスタートは海の上でした。28歳のときITエンジニアに転身しましたが、もともとは外国航路の船員だったんですよ。船上は年功序列の縦社会。しかも閉ざされた空間です。そこに“丁稚”として入ったわけですから、つらいこともあったはず。でも、時が経つと楽しいことばかり思い出すようになりました。仕事が終わってからの麻雀とか、酒盛りとかね。
山岡荘八 著
ISBN:978-4061950238(第1巻)
講談社
各巻777円(税込)
船のデッキでゴルフの打ちっ放しもやりました。乗っていたのはタンカーや貨物船ですから、船首から船尾まで300メートルくらいあるんですよ。思い切りクラブを振れて、気持ちよかったなあ。ただ残念なことに、打ちっ放しはしばらくして禁止されました。なぜかって?どこかの港で水揚げされたマグロを解体したら、胃の中からゴルフボールが出てきた。それで、「なんでこんなところにこんなものが」と騒ぎになったそうです。
話が少々脱線しました。読書の楽しみを覚えたのも、船の上でした。学生時代は、アクションものや娯楽ものは読んでいましたが、とりたてて本好きというわけではなかった。それが最初の航海中、船内の小さな図書室に並んでいた「徳川家康」になんとなく手が伸びましてね。読み出したらこれが面白かった。1年あまりの航海中に、全26巻を読み終えました。
私の読書傾向は、この“原体験”によるところが大きい。長編やシリーズものが好きなんですよ。書店の棚をずらっと占めているような大作を見ると「読んでみようかな」と食指が動きます。少なくとも上・中・下巻がないとだめですね。1冊で終わってしまう作品や短編集は、物足りなく感じます。
ジャンルにはそれほどこだわりません。ただ、船で働いていた人間としてはやはり海洋ものに目が留まります。例えば、「紺碧の艦隊」。これは、もし第2次大戦を今の時代にやり直したらどうなるかをシミュレーションした架空の戦記です。船員時代に使っていた船舶関連の専門用語がたくさん出てくるので、読んでいて臨場感や親近感がわきます。それに、フィクションではあるものの、道州制とか技術立国とか、昨今さかんに言われている議論を先取りしているようなところもあって、興味深く読めます。何より、全10巻と長いところが私の好みにぴったりですよ(笑)。
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