[ものづくりからことづくりへ、製造業に迫るサービス化の波]

サービスの新潮流(2) IoT(Internet of Things:モノのインターネット):第12回

2014年12月16日(火)山田 篤伸(PTCジャパン)

第7回までに、製造業のアフターサービスの進化の流れを追いながら、ITの仕組みを使ってアフターサービス事業を効率化する方法を見てきた。第8回から第10回では、アフターサービスから真のサービスへビジネス構造をシフトする際に、多くの組織が直面するカベと、そのカベを乗越えるためのヒントを説明した。前回は、今後一般化すると思われるサービスの最新トレンドとして「オムニチャネル」を紹介した。今回は、もう1つの最新トレンドである「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」を取り上げる。

 ARPA(Advanced Research Projects Agency:米高等研究計画局、現DARPA:Defense ARPA:米国防高等研究計画局)で産声をあげたインターネット。しばらくはサーバーやPCといった高度な演算処理能力を持つコンピューター機器だけが接続されていた。2000年以降に携帯電話やスマートフォンが急速に普及するに伴い、インターネットには現在、コンピューター以外の機器が多数つながっている。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代の本格的な幕開けである。

技術革新によるデバイスの常時接続がIoTの幕を開けた

 メーカー各社はこれまでも、製品の稼働状況を把握するために、多数のセンサーやモニターを製品に搭載してきた。しかし、従来はデータを効率よくネットワークを介して転送する術がなく、費用がかかる固定回線/携帯回線を用意するか、現場に赴いてデータを物理的に吸い上げるしか方法がなかった。結果、メーカーは製品の稼働状況をリアルタイムには取得できなかった。

 せっかく機器がスマートになり様々な情報を検知できるようになっているにもかかわらず、データをリアルタイムで把握・分析し、製品開発やサービスには活かせなかったわけだ。

図1:IoTをサービスに活かそうとする企業が構築したシステムの画面例図1:IoTをサービスに活かそうとする企業が構築したシステムの画面例
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 それが近年は、Wi-FiやBluetoothをデバイス向けに省電力で接続するための規格が相次いで実用化段階に達し、製品をワイヤレスでネットにつなぐための技術的な目処が立ってきた。実際、多くの製品がインターネットに直接つながるようになってきた。それに伴い、IoTをサービスに活かそうとする企業の取り組みも増えている(図1)。

 米シスコの試算では、ネットに接続されているデバイスの数は、2014年初頭で既に世界の総人口を超える60億に達しており、2020年には500億のデバイスがネットに接続されると予測する。これにより、今後10年間に世界で1500兆円を超える新しいビジネスが一般企業にもたらされるとする。IoTにより今後10年で企業利益を平均で21%も押し上げると見られる。

製造業のオムニチャネル化にIoTは不可避

 第11回の『サービスのオムニチャネル化』で例に挙げたクルマのケースでは、サービスを提供するための ITとしてIoTの仕組みを利用している。車載機器がネット経由でメーカーの監視センターや整備工場、販売店などとつながり情報を交換することで、ドライバーに役立つサービスを提供している。

 サービスのオムニチャネル化を製造業の視点から考えるためには今後、IoTを避けては通れないだろう。既にIoTをサービスに利用している製造業も存在する。具体的な事例をいくつか挙げて見よう。

事例1:医療機器の製造販売会社、シスメックス
血液や尿を分析するための検体検査機器をリモートでモニタリングし、機器の精度を厳密に管理している。機器の異常を検知した場合には、最寄りのサービスエンジニアを派遣する仕組みを構築している。

事例2:鉱山で使用される建設機器のメンテナンスサービスを提供するJOY Mining
15カ所の鉱山で稼働する1000以上の機器をリアルタイムで監視し、機器の故障停止時間を最小限に留めることで生産性を向上させるためにIoTを活用している。

事例3:建設機器大手のコマツ
「コムトラックス」として知られるリモートサービスの仕組みを展開している。車両に組み込まれたGPSと通信システム経由で得られる情報を活用し、建機それぞれの稼働状況やメンテナンス時期を把握する。燃料消費量やCO2排出量、運転負荷などの情報を基に省エネ運転のアドバイスなども実施している。

 こうした事例は今後、建設機器や農業機器、医療機器や精密機器をはじめ、様々な分野で報告されることだろう。

IoTが変えるサービスのありかた

 IoTは、サービスの提供プロセスを大きく変革する可能性を秘めている。スマートデバイスが集めてくる状況をリアルタイムに分析することで、より素早く、より低コストでサービスを提供できるとの期待が高まっている。

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