[真のグローバルリーダーになるために]

【第45回】香港のプロジェクトは落札できた、だが

2016年10月14日(金)海野 惠一(スウィングバイ代表取締役社長)

香港の鉄道カードシステムの入札に向けては、競合相手だった北京鳳凰との間に信頼関係を築くことに成功し、受注できる見込みが立った。だが、入札金額に余裕はなく、さらなるコスト削減策が必要だった。ホテルに戻った日本ITCソリューションの三森事業部長と佐々木課長は、ホテルのバーでコスト削減策について話をしていた。

 入札資料の作成過程で調べた委託先について佐々木は三森に話した。開発ではバングラデッシュに、総合テストでは日本に、コスト面だけでなく信頼できる企業があった。特に総合テストを手がける「コンバート」と言う会社は、管理部門を持たないなど、社長の青木がコスト削減にも工夫を凝らしていた。

 「へえ、そういうすごい企業があるのですか?今まで聞いたことがありませんでした」

 「そうなんです。青木さんはコンバートを創業する前は金型製作の企業にいまして、金型製作のリードタイムを1カ月から2日間にまで縮めた男です。今でこそ3Dプリンティングの技術ができていますが、当時はそういったものはありませんでした。

 その彼は今、携帯電話が鳴ると電話機から“匂い”が出るシステムを作っています。先日、洗剤メーカーの菊王の研究所に同行して、彼の試作品を見せてもらいました。電話をかけるとイヤホンジャックに刺した球状の部分から香りが出るのです。本当、びっくりしました。アメリカでは試作品の販売を始めていますが、製品紹介の動画をYouTubeに載せたところ、アクセスが500万回もあったそうです。彼は天才ですよ」

 「なるほど、一度会ってみたいな」

 三森の言葉に、佐々木が話を続けた。

 「いつでも紹介いたします。ところで問題は設計です。設計に日本人SEが対応しては、とても採算は取れないでしょう。これから一緒に仕事をする北京鳳凰については、香港支社の森山さんに調べてもらいました。蘇総経理が詳細設計に精通していると言っていましたが、レベルは相当に高いようです。ただ、最近の中国は物価と賃金が上がっていますので、以前ほど低コストだとは言えません。

 インドも同様で、日本よりは安いですが、そんなに安いわけでありません。李嘉誠の長江実業グループの系列企業であるPCCWだとレベルは日本と変わりませんが、コストも日本と一緒です。レベルが高い企業は、それなりに高いということです」

 そう言うと佐々木は、ため息をついた。

 「でも、蘇さんのところに詳細設計を出して、報告書に書いてあったバングラデシュとかパキキスタンとかインドを使って開発し、青木さんのところに総合テストを依頼すれば、そこで全体コストの4割を占めますから、その中で3割削減できれば全体コストを12%削減できるということですよね。そこをもっと詰めれば20%減までは行けるのではないですか?」

 三森は頭で計算したことを佐々木に投げかけた。

 「事業部長、その通りですが、20%下げられるという計算ができても、絶対にオーバーするところが出てきますから、経験則ではよく見て10%でしょう。下手をすると赤字です」

 「なるほど。そうですね」

 三森は佐々木の話に頷いた。

 「佐々木さん、明日は早いので今日はこれくらいで部屋に引き上げましょうか」

 「はい」と言う佐々木の返事と共に2人はバーを後にした。

1週間で詳細を詰めて落札にこぎ着ける

 翌朝、2人はひどい霧の中を飛行場に向かった。飛行機が飛ばないのではなかと思うぐらいのスモッグだったが、飛行機は定刻通りに北京を飛び立った。

 佐々木は日本に戻ると、入札まであと1週間しか時間がないので多忙を極めた。総合テストの、どの部分を青木の会社に依頼するのか、バングラデシュやパキスタン、インドなど見積もり先との交渉もあった。

 北京鳳凰との関係は良くなったので、そこは何でも聞けそうだ。彼らと、どの部分を協業できるかをさらに詰めていかなければならない。昨日渡した検討資料についてもコメントをもらわなければならない。意図的に単価を低く抑えて出しているので何か言ってくるに違いない。10%までなら上乗せしても良いのだが、それ以上を言ってきたら、どう交渉すればよいのかも考えないといけない。佐々木の頭はパンクしそうだった。

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