[OSSを理解する]

OSSとデジタルトランスフォーメーションの関係──OSS鳥瞰図

【最終回】

2017年8月22日(火)藤田 稜(日本OSS推進フォーラム クラウド技術部会)

IT Leadersは2012年5月に「OSS鳥瞰図」を作成・公開している。様々あり多岐にわたるOSSを鳥の目で俯瞰的に理解できるように、という意図で作成したものだ。しかしOSSの進化は急ピッチである。そこに問題意識を持った日本OSS推進フォーラム クラウド技術部会が完全リニューアルし、「OSS鳥瞰図2017年α版」を作成した。本連載はこれに基づき、主なOSSをカテゴリ毎に解説している。第7回は「デジタルトランスフォーメーションとOSSの関係」に焦点を当てる。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は、スウェーデンUmeå(ウメオ)大学のErik Stolterman教授が2004年に発表した論文「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE(http://www8.informatik.umu.se/~acroon/Publikationer%20Anna/Stolterman.pdf)」において提唱された概念とされる。

 論文タイトルから明らかなように、DXとはデジタル技術─ITと言い換えても良い─が、人々の生活のあらゆる局面で発生し影響を及ぼしうる変化、特に人々がより良い人生を生きられるような変革を指している。論文から13年以上を経た現在、ITは急ピッチで進化し続け、人々の生活に深く浸透した。物理的あるいは身体的に我々が認識している世界とさらに密接に接続され、そして蒸気機関や電力がそうだったように、劇的に世界を変えつつもある。

 一方で概観すると単に「変革」と表されるものの、内実をよく観察すると個別の「変化」の程度は国や地域によって発展度が異なる世界地図を眺めるかのごとく、まだら模様を呈していることに気付く。日々、スマートフォンを用いながらも、今も各部門長から決裁印を集めて回る。工場ではロボットがフレームとなる複雑な形状の部品を数秒で溶接しているにも関わらず、単なる業務報告のために1時間を超える会議に縛られる…。このような実態は何の因果なのかと考えを巡らせざるを得ない。そう、まだらなのである。

OSSの活用はデジタル変革の必要条件

 前置きが長くなったので、本論に入ろう。デジタル化とは経営環境の変化であり、そうである以上はすべての企業が適応しなければならない。創業10年に満たない企業の時価総額(企業価値)が100年以上存続している企業のそれを軽々と追い越し、2000年にフォーチュン500にランクされた企業の52%が2014年には現存しないという事実(*1)は、デジタル化とそれが巻き起こすDigital Disruption(デジタル破壊)の威力を雄弁に物語る。

*1 http://blog.softwareinsider.org/2014/02/18/research-summary-sneak-peaks-from-constellations-futurist-framework-and-2014-outlook-on-digital-disruption/screen-shot-2014-02-17-at-6-36-58-pm/

 DXは企業が顧客や取引先はもちろんのこと、製品やサービス、企業の従業員や働く環境に至るまで、あらゆる局面をデジタル技術を駆使して変革し、結果として企業価値を高めることを指す。では企業に必須のDXを推進するにあたって必要なコンポーネントは何か。その答の1つがOSSである。

 帰納による蓋然性の導出には限界があるので、OSSを利用しさえすればDXに成功するという推論を積極的に採用するのは難しい。しかしDXに成功、あるいは先導している企業に共通するのはOSSの活用であることから、このことが必要条件の1つであると考えるのは誰にとっても易しいだろう。

 OSSがなぜDXと親和性が高いのかについて考えてみると、従来から言われていたOSSの長所が挙げられる。列挙すると以下になる。

1) ベンダーロックインからの解放

 ベンダーロックインは多くの場合、必然的にベンダー依存を招く。それが企業のIT力を弱体化させ、ITシステムを陳腐化させ、コストの上昇を招く。さらに他のシステムとの相互運用性を損ない、業界標準から逸脱し、結果として企業の価値を損ねる。OSSを活用するには主体性が求められるため、これらのことは発生し得ない。

2) 車輪の再発明の回避

 ソフトウェアは単体で動作するものではない。Linuxを例に取れば、カーネルがあり、ライブラリがあり、プログラミング言語のランタイムがあり、フレームワークを利用してアプリケーションを開発するという、重層構造とそれらが複雑に絡み合うメッシュを成している。この複雑な構造が正常に(時に正常でない時もあるが)動作するのは、「顔も知らない誰か」が先行して設計し、実装し、テストしているからだ。もし十分に実績のあるOSSが企業の目的に合致するならば、これを採用しない手はない。

3) トップ企業のエンジニアにより実装される最新のテクノロジー

 2)で「顔も知らない誰か」と書いた。読者には既知のことだと思われるが、今やMicrosoftを含む多くのテクノロジー企業がOSSの開発にコミットしており、自らが利用するため、あるいは自らの製品の一部もしくは製品を動作させるためにOSSコミュニティに参加している。その成果物はそれらトップ企業が採用するテクノロジーを色濃く反映しており、それらを採用することはトップ企業の、いわば真似ができることになる。

4) 従業員のスキルセットの更新

 主に技術者にとって重要なのだが、最新のテクノロジーに触れることでモチベーションを高く維持できる。また最新の技術は旧来の技術よりも高い性能や利便性、効率の良さと言ったものを備えて登場してくる。特定のシステム環境でしか動作しないサービスは、マルチOS・デバイスで動作するサービスには決して勝てないし、時間や場所に囚われずに働くことを可能にする。

鳥瞰図を参考にしてOSSへのキャッチアップを!

 さて「OSS鳥瞰図」をDXに役立てるにはどうすれば良いのかというと、2012年の初版と見比べて毎年追加されているカテゴリやプロジェクトを中心にキャッチアップすればほぼ正解を得られる。

 カテゴリで見ると、やはりビッグデータが大きな変化として挙げられる。データをストアし、分析し、見える化することに加え、バッチ処理からリアルタイム処理への転換の要求がインメモリーDBであるSparkなどを生み出してきた。例えばMicrosoftが提供する「My Analytics」(旧称・Delve)というアプリケーションのバックエンドはSparkやCassandra、Kafka、Splunkによって構成され(*2)、2016年末にはMicrosoft Azure上で1000ノード以上で構成されている。さらに巨大なデータから何らかの知見を得ようとする試みは、機械学習やディープラーニングといった新しいテクノロジーを産んでいる。

 *2 https://www.slideshare.net/SparkSummit/office-360-and-spark

 サーバー仮想化技術は古くからあったものの、2005~2006年にAMD社・Intel社がIA(Intel Architecture)レベルでの仮想化支援技術の導入を開始したことからx86サーバーで爆発的に普及し、後のクラウドコンピューティングの登場に繋がっている。ただしサーバーの仮想化だけではクラウドコンピューティングは実現できず、ストレージやネットワークについても仮想化技術が登場している点にも注目してほしい。

 Microsoft Azureでも、MicrosoftとRed Hat社が共同でサポートを提供するRed Hat Enterprise Linuxや各種のLinuxディストリビューションだけでなく、それらを含むOSSソリューションがAMP(Azure Markent Place)で提供され、最短で数分以内にサービスを立ち上げることができる。

 さらに迅速にスケーラブルなPaaSとして、Azure Web Apps on Linuxが現在、プレビューとして提供されており、近々GA(一般提供)が開始される予定だ。Web Apps on Linuxでは、PHP、Python、Node.js、Java、ASP.NETをFTPでアップロード、あるいはDockerレジストリやGitHubからデプロイすることで迅速にサービスを立ち上げられる。今やMicrosoftもOSSにコミットし、顧客のデジタルトランスフォーメーションに向けて提供する時代である。この動きを多くの日本企業がキャッチアップし、OSSを活用し、また貢献する動きが増えることを願っている。

筆者プロフィール

藤田 稜
日本OSS推進フォーラム クラウド技術部会
Microsoft Corporation(GBB OSS Japan Tech Lead)

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