データマネジメント データマネジメント記事一覧へ

[データマネジメント—“活用されるシステム”の極意]

経営を左右するデータマネジメント:第1回

2010年5月26日(水)大西 浩史(NTTデータ バリュー・エンジニア 代表取締役社長)

情報システムを経営に生かす-その根源となるのはデータの品質である。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やクラウドコンピューティングなど技術革新の激しいITの世界だが、データ品質の維持管理の視点が欠けていては恩恵を享受することはできない。「活用されるシステム」を具現化するための、データマネジメントの勘所を解説する。

昨今の厳しい経済環境下では、今まで以上に“正しい現状の認識”に基づいた意思決定が企業経営に求められるようになっている。電子の世界が日常生活や企業運営の隅々にまで浸透した今日においては、現状とは「データ」という形に保存され、意思決定の根拠となっていることが極めて多い。しかしながら、データマネジメントに問題があるため、データが正しい意思決定をするための羅針盤になりえないという状況を、筆者は数多く目の当たりにしている。

本連載では、データマネジメントの重要性を実際に筆者が見た事例を中心に解説する。そして、読者の皆様が所属企業でデータマネジメントを実践し、事業の競争力強化につなげていくために必要なポイントを示していく。

第1回は、データマネジメントが必要となる背景を中心に、いくつかのケースをもとに解説する。

データマネジメントが必要となる背景

●営業マネジャーからこう言われたことはないか…?

自社の販売実績データに同一顧客が何人も別人として登録されているため、個客の購入履歴が正しく把握できず、クロスセル/アップセルなどの販売戦略がうまく作れない

●調達購買マネジャーからこう言われたことはないか…?

「○○設備一式」と登録されている購買データが多く、何をどこの会社からいくらで購入しているかの明細が不明で、サプライヤーとの価格交渉がきちんとした数字に基づいてできない

●経営者からこう言われたことはないか…?

グループ会社を含めて、お客様との経年での取引額の推移や営業品目等の詳細、営業をかけている組織とリソースの状況、販売計画に対する実績の推移、グループ全社的視点でのホワイトスペースなどが、リアルタイムに見えない

データマネジメントが必要な状況は、これらの事例のように身の回りに多々存在しているだろう。初回である今回は特に、データマネジメントが必要となる背景を、身近にありそうな3つの話をもとにして詳しく説明する。

(1)誤った意思決定につながる低品質のデータ

人は毎日、何らかのデータを基に意思決定し、行動している。食品を購入するのであれば、価格や消費期限、生産地のデータなどを参考にしているだろう。企業経営においても個人と同じく、あるいはそれ以上に厳密に、社内外にあふれる様々な統計データを基に事業や投資に関する戦略の意思決定を行っている。

しかし、頼りにするべきそれらの根拠となっている「基礎データ」そのものに、故意・過失を問わず、入力ミスやごまかしがあれば、どうなるのだろうか。たとえば、顧客の購買履歴から出力される統計データも正しい“顧客像”を表しているとは言えなくなる。

ある日本を代表する企業が保有する4つのシステム間で、商品のクロスセルを目的とした顧客データの「見える化」を行ったときのデータを、図1のように例に挙げて具体的に説明しよう。これらのシステムでは、漢字氏名に「あいうえお」と記載されていたり、「明治元年生まれ(現在では140歳を超える!)」のお客様が大勢いたりするなど、通常では考えられないデータが存在していた。このような問題データでは販売営業施策を実行できないといった販売機会ロスが発生するばかりか、顧客に対する何か重要な通知の必要性が発生した場合に対応できないなど甚大な影響がでることは明らかだ。

ある大企業が保有していたデータの実例
図1 ある大企業が保有していたデータの実例(図をクリックで拡大)

この例のように企業活動では、問題データが経営を誤った方向に導く「壊れた羅針盤」となり、存続の危機を招く凶器にさえなり得る。この例はシステムに十分な予算がかけられる大手優良企業で実際に起こっている事象であり、読者の皆様の企業でも、おそらく“他人事”では済ませられない実例ではないか。

(2)「クラウド」の前に整備が必要なマスターデータ

昨今、エンタープライズレベルで話題となるクラウドコンピューティング技術で、しばしば議論の的になるのが、データをどこに置くのか、どこまでのシステムをクラウド化対象にできるかというテーマだ。ただ、筆者が懸念するのは、それ以前にデータがきちんと統一された視点やルールで管理可能なのか、自社内に残る基幹系等のデータ資産と整合性をもってコントロールされるかどうかということである。

ハードウエアがメインフレームからオープンシステムへ、プログラム言語がCからJavaへ、といった周辺技術の変化や、SaaSやクラウドが一般化されたとしても、システムを経営に活用するためには、データの管理が土台として必要であることに変わりはない。「アプリケーションはいかに進化して変わり続けても、データは不変」と言える。換言すれば、マスターデータの管理さえしっかりしていれば、そこを基点に吐き出されるトランザクションデータそのものの置き場所は「雲」の先にあっても構わない。しかし、データ品質の管理や内外の整合性が確保されていないのに、クラウドコンピューティングやBI(ビジネスインテリジェンス)といった議論を始めても、結局本来の目的が達成できずプロジェクトの失敗につながるだけである。

(3)時代の要請とともに使われ方が変わるデータ

データマネジメントに対して、組織が常に目を光らせておくべき理由の1つとして、「法令の変化」や「企業統合」が挙げられる。こういった時代の要請の変化とともに、求められるデータのあるべき姿も変わってくるためだ。

例えば、固定資産の管理方法の例を考えてみよう。日本では税法に基づいて固定資産の耐用年数や償却方法を決めるケースが大半であり、従来はそれで問題ないとされてきた。しかしながら、2015年にも強制適用になるという話がある国際会計基準(IFRS)でのコンポーネント・アカウンティングでは、有形固定資産の重要な構成要素ごとに取得原価、耐用年数、残存価格を分けて管理する必要が出てくる。よく言われるのが航空機の例で、「航空機」として減価償却するのではなく、「機体」と「エンジン」など別々の償却を検討する必要がある。こうなると企業の固定資産データも根本から見直しが必要になる。

別の例として、企業統合に伴って生産管理システムを統合したケースを説明する。この事例では、両社が使っていたコードで管理の粒度が違い、さらに社内の部門ごとにローカルコードが振られていたため、システムの設計書にない情報を現場から掘り起こし、コード変換表を作成するために多大な時間を費やすこととなった。

現時点では必要なレベルでデータマネジメントができていたとしても、法令変更や企業統合などのイベントは企業外から突然訪れる。その環境の変化とともに、求められるデータマネジメントも変わってくるのだ。

(次ページでは、品質の低いデータが引き起こす問題について解説!)

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
データマネジメント—“活用されるシステム”の極意一覧へ
関連キーワード

経営戦略 / マスターデータ / MDM / ELT / データ統合 / NTTデータ バリュー・エンジニア

関連記事

トピックス

[Sponsored]

経営を左右するデータマネジメント:第1回情報システムを経営に生かす-その根源となるのはデータの品質である。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やクラウドコンピューティングなど技術革新の激しいITの世界だが、データ品質の維持管理の視点が欠けていては恩恵を享受することはできない。「活用されるシステム」を具現化するための、データマネジメントの勘所を解説する。

PAGE TOP