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エンジニアの定番ツールが全社のコミュニケーションを変える!?「ビジネスチャット」

2019年1月17日(木)清水 響子

マイクロサービス、RPA、デジタルツイン、AMP……。数え切れないほどの新しい思想やアーキテクチャ、技術等々に関するIT用語が、生まれては消え、またときに息を吹き返しています。メディア露出が増えれば何となくわかっているような気になって、でも実はモヤッとしていて、美味しそうな圏外なようなキーワードたちの数々を「それってウチに影響あるんだっけ?」という視点で分解してみたいと思います。今回はエンジニアのプロジェクト管理から最近ではビジネスコミュニケーションにまで活用が広がった「ビジネスチャット」を取り上げます。

【用語】ビジネスチャット

 2017年11月の日本進出から1年と少し、「Slack」(画面1)が擁する世界約7万社・800万ユーザーのうち、日本人ユーザーは50万人超と言われ、国内でも急速に利用が進んでいるようです(関連記事DeNA、クックパッド、メルカリなどネット企業10社が社内ITを公開、Slackが大人気「Slack」を全社導入、社内コミュニケーションの活性化狙うヤフーの取り組み)。

画面1:2017年11月にSlack日本版が登場し、国内でもユーザーが急増している(出典:Slack)
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 最近では、NTTドコモの社員1万人を対象に2005年リリースのプロジェクト管理ツールBacklogが導入されたり(関連記事NTTドコモ、プロジェクト管理ソフト「Backlog」を全社1万人規模で利用)、“ブルームバーグキラー”の異名を持つ金融機関向けの「Symphony」が2018年9月に日本語版をリリースし、みずほ証券等で導入されるなど、ITベンチャーの開発者が愛用するコミュニケーションツールが、「ビジネスチャット」としてにわかに注目を集め始めています。

 市場調査会社の定義を見てみましょう。GartnerはSlackをはじめとするビジネスコラボレーションツールを「Workstream Collaboration(WSC)」としてチームの調整、パフォーマンスやコミュニケーション、生産性向上のために設計されたコラボレーション環境と位置づけています。

 また、ForresterやMarkets and Marketsは「Enterprise Collaboration(EC)」と呼んでいるようです。クラウドベース、リアルタイムの双方向コミュニケーション、アプリ連携、チャットおよび連携アプリの検索を条件とするMcKinseyの”message-based platform”の定義もほぼ同義といえそうです。

 日本のアイ・ティ・アール(ITR)は、2017年度の国内売上金額を34億6,000万円(前年度比80.2%増)と発表、2022年までに140億円規模への成長を見込んでいます(図1関連記事ビジネスチャットの導入が急加速、2020年度は100億円規模の市場に─ITR調査)。

図1:ビジネスチャット市場規模推移および予測:ITRは国内ビジネスチャット市場規模を2022年に140億円規模と予測した(出典:ITR「ITR Market View:ビジネスチャット市場2018」)
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【イノベーション】SNSのUIと業務アプリをシームレスに連携

 ビジネスチャットが新しい点は、FacebookやTwitter、LINEなどに似た親しみやすいUIと検索性、他システムとの連携しやすさ、そしてボットによる処理の自動化です。プロジェクトの目的に応じて設置されたチャネル(掲示板)上で時空に制約を受けないコミュニケーションを促し、チームワークの生産性を向上させます。

 代表格であるSlackのホワイトペーパー(IDC作成)によると反復テスト27%、バグフィックス21%といったエンジニアの時間削減効果にとどまらず、営業のリード成約率25%向上、職員が1人前になるまでの時間24%削減、カスタマーサポートの課題解決時間31%削減……等々、あらゆる分野で成果をあげています。

 McKinseyによるとコミュニケーションの頻度向上やコスト削減、プロジェクト型の自律的チーム形成といった面で効果が認められ、複雑化・高度化し加速するプロジェクトと人材不足を背景に、急速に導入が進んでいます。

図2:ビジネスチャットの導入効果例 :McKinseyによるMessage-based Platformの導入企業(左)と未導入企業(右)の過去3年間の比較調査では、コミュニケーションの頻度や自律的組織化といった項目で大差が見られる(出典:McKinsey & Company「Advanced social technologies and the future of collaboration」)
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メールの限界を克服

 ビジネスチャットが目指すのは、ビジネスにおけるコミュニケーションの効率化です。昔から長らく使われ続けている電子メールと比べると、その利点がわかりやすいでしょう(図3)。

 メールはアドレスのわかる相手とのコミュニケーションで、基本的にはメールソフトが必要です。「〇〇様、いつもお世話になっております。」などと、都度宛名と挨拶から始めることが多く、しばしばやりとりが長くなったり、途中から参加したメンバーへの情報共有が面倒だったりします。文章表現の苦手なユーザーが混乱を招くこともあります。

 さらに、近年はセキュリティの観点から社内PCに利用が限定されたり、ファイル添付にいちいちパスワードが必要だったり、VDIで蓄積容量がそもそも少なかったり、またローカルに保存したファイルのバージョン管理が煩雑だったりと、いったさまざまな制約がユーザーに一層のストレスを与えるケースも増えてきました。

図3:電子メールとの比較イメージ:案件ごとにコミュニケーションが分断・点在しがちなメールに比べ、コミュニケーションの持続性と柔軟な広がりが期待できる
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 これに対しビジネスチャットは、基本的にユーザー、デバイス、アプリ、データとも、柔軟でオープンです。掲示板形式でプロジェクトごとのチャット履歴やファイル更新履歴をすべて追えるため、メンバーが入れ替わっても、過去のメールを苦労して探し転送する必要がありません。

 また、Slackや日本のChatwork、Backlogといった主要サービスはWebブラウザでも専用のアプリでも利用できるようになっています。スマートフォンからSNS感覚で簡単なコメントや「いいね」などの「ひとまずリアクション」がしやすいため、コミュニケーションの頻度向上や結果としてのコスト削減が期待できます(図4)。

図4:SNSとほぼ同じインターフェイス(Workplace by Facebook):きちんと返信ではなくても、ひとまず「いいね」などのリアクションがしやすい
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図5:検索機能の例(Slack)
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 ビジネスチャットは各サービスともキーワードだけでなくファイルの形式や話題、オーナーなどによる絞り込みといった検索機能が充実していて、メールの難点である、情報の探しづらさも改善されます(図5)。

 ファイルの保管場所も属人的でなくチームが共有するため、同じ最新情報を使っての作業が容易です。さらにGoogle Driveなどの共同編集環境を連携させれば、バージョンの取り違えも撲滅が可能です。大量のメールや添付ファイルの検索に悩む時間が大幅に削減できます。

多様な機能をAPI連携

 そして、ビジネスチャット最大の利点と言えるのが、豊富な外部アプリケーションとのAPI連携です。ビジネスチャット自体はメッセージとファイル共有のシンプルな機能が中心ですが、ファイルやスケジュール共有、顧客コミュニケーション、ワークフロー等の外部アプリがビジネスチャット画面からシームレスに利用できるため、機能ごとに異なるシステムへログインする必要がありません。Slackが「Collaboration Hub」と標榜し、Facebookがエンターブライズ版をWorkplace」と名付けているゆえんです。

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