[エンタープライズ・システムのためのWeb 2.0]

エンタープライズ2.0を訪ねて三千里:Interop Tokyo編

2007年6月24日(日)IT Leaders編集部

先日行われた「Interop Tokyo」の展示会(2007年6月13日~15日)で、エンタープライズ2.0に関する話題を探してみた。

エンタープライズ2.0のためのソフトウェアスイート:SuiteTwo

NECは、米SpikeSource社のソフトウェアスイート「SuiteTwo」を、主催者展示企画である「Web 2.0パビリオン」で紹介していた。

SuiteTwoは、SpikeSource社が「The Enterprise 2.0 Suite」と銘打って提供しているソフトウェアスイート。ブログやWiki、RSSアグリゲーション/フィードといった情報活用のためのアプリケーションや、それらに対して横断的に利用できる、全文検索、ユーザー管理といった基盤機能が含まれている。

ブログは米Six Apart社の「Movable Type」、Wikiは米Socialtext社の「Socialtext wiki」、RSSアグリゲーション/フィードは米NewsGator Technologies社の「NewsGator」「SimpleFeed」でそれぞれ実現されている。こうしたソフトウェアと、それらの基盤となるミドルウェアを組み合わせ、オールインワンのソリューションとして提供するのがSuiteTwoということになる。


(NEC技報Vol.60(2007)より引用)

SpikeSource社は、特定の機能を実現するために複数のオープンソースソフトウェアをチューニングして組み合わせ、それを「スタック」と呼ばれるサポートソリューションとして提供するビジネスを行ってきた。

NEC技報Vol.60(2007)より引用

オープンソースソフトウェアの開発は、ユーザーが求める機能単位というより、開発者側の意向や都合による単位で行われる傾向がある(それはオープンソースという開発手法が本来的に持っている性質に由来する)。そのため、たとえばWebベースのシステムを構築する場合でも、HTTPサーバのApacheだけでなく、PHPやPerlといったプログラミング言語の実行環境、Tomcatなどのアプリケーションサーバ、MySQLなどのDBMS、そのほか細々した機能を実現するライブラリなど、さまざまなプロジェクトで開発されている数多くのソフトウェアを組み合わせる必要がある。やっかいなのは、それぞれが独立のプロジェクトで開発されているがために、それらを組み合わせて実行してきちんと動作するかどうか、そのままで最高のパフォーマンスが発揮されるかどうか、まったく保証の限りではないという点だ。SpikeSource社は、こうしたオープンソースソフトウェアを組み合わせるときのユーザーの不安を解消するために、ユーザーが求める機能(Webサーバ、J2EEアプリケーションサーバなど)を実現するオープンソースソフトウェアの組み合わせについて、その動作を検証し、最適なパフォーマンスを発揮するチューニングを行うなどしている。こうして提供される、ユーザーが求める機能を実現するオープンソースソフトウェアの組み合わせが「スタック」である。

今回、NECがSpikeSource社、米Intel社と提携して日本で提供するSuiteTwoは、オープンソースソフトウェアをユーザーが求める機能単位のソリューションとして提供するという意味で、SpikeSource社が従来から行っているスタックビジネスの延長線上にある。 NECでは、SuiteTwoの日本語版を開発し、今年夏以降、ASPサービスやパッケージ商品として提供する予定だとしている。公表されている販売目標は、今後3年間で1000システムとなっている。

企業向けソーシャルニュースサービス:Choix for Business

株式会社アセントネットワークス(2006年1月設立、本社:東京都台東区)はベンチャーパビリオンに出展し、企業向けのソーシャルニュースサービス「Choix for Business」(Choix=チョイックスと読む)を紹介していた。

Choix for Businessは、いわゆるソーシャルニュースと呼ばれる情報共有を企業内で行うためのサービス。ユーザーが自由に「記事」を投稿することができ、それに対してコメントを付けたり、ランキングを行ったりすることで、情報を共有、活用することを狙っている。「記事」として他サイトへのリンクを投稿することもできることから、ソーシャルブックマークという側面もアピールされている。またRSSアグリゲーションの機能もあり、RSS Feedから自動的に「記事」を投稿することも可能だという。検索機能はもちろんのこと、記事内容から自動的にタグ付けを行う機能も用意されている。

Choix for Businessは、同社が2006年9月からコンシューマ向けにサービスを提供しているソーシャルニュースサイト「Choix」のソフトウェアをベースに開発されている。同社では、同じくコンシューマ向けに提供しているブログサービス(同社ではミニブログと呼んでいる)「HARU」についても、「Haru for Business」として提供していくとしている。こちらもChoix for Business同様、ASPサービスとして提供される予定。

同社社長である朴世鎔(パク・セ・ヨン)氏によると、韓国でもエンタープライズ2.0が注目され始めており、カンファレンスイベントが開かれたり、関連企業が業界団体を作ろうとする動きがあるという。

取材後記

Interopというイベントは、もともとがネットワーク機器の相互接続デモンストレーションという主旨で始まったこともあり、どちらかというとネットワークテクノロジーやハードウェアの話が中心であるかのような印象がある。しかし、ネットワークが広く普及し相互接続できるということ自体にそれほど注目が集まらなくなったこともあって、その後はネットワークを前提にしたコンピューティング環境で何ができるのかといった視点から、ソフトウェアやソリューションの領域も積極的にカバーするようになってきた(“興行主”が変わるなどした事情もあるが)。

今回は、主催者展示企画として「エンタープライズソリューションShowCase」や「Web 2.0パビリオン」が設置されていたため、そういったところを中心に渉猟すれば、エンタープライズ2.0に関するネタにありつけるかもしれない――そんな目論見であった。

しかし、エンタープライズソリューションShowCaseの主なトピックは、ひと言で言えば「セキュリティ」であり、企業の情報システムをどうするかという視点の製品やアピールは皆無であった。Web 2.0パビリオンにいたっては、かろうじて「Webの界隈で取りざたされている話題や技術に関連した」という括りがかろうじてできるという程度の、何ともまとまりのない一角となっていた。グループウェアのユーザーインターフェースをAjaxで作りましたとか、「UXと書いてユーザーエクスペリエンスと読みます」的なアピールは、面白くないとまでは言わないが、残念ながら今回の目的ではない。

だからといって、ひどく落胆したわけではない。ある程度は予想していたことでもある。そもそも、エンタープライズ2.0という言葉や考え方が、まだまだ日本ではそれほど浸透していないうえに、エンタープライズ2.0には、Web 2.0とは違った難しさがあると感じていたからだ。 それは要するに、語られている内容の「現実感」の違いである。

Web 2.0と「ラベル付け」されている概念は、近年のインターネットにおいて、もはや抗いがたい勢いで着実に広がっている事象を、巧みに分類し言葉で明確に表現して見せたものである。決してTim O'Reillyが未来を予言したわけではなく、インターネット、特にWebという新しいメディアの上で実際に起こりつつあった動きを、編集者的なセンスで言葉にまとめ提示して見せたに過ぎない(Timの功績を軽んじようというわけではない)。

一方、エンタープライズ2.0は、その発端とされているAndrew McAfeeの論文「Enterprise 2.0: The Dawn of Emergent Collaboration」でも例が挙げられてはいるものの、それは企業情報システムの現状からすれば、まだまだレアケースと言わざるを得ないのであり、そこから今後起こりうるだろう変化として「予想」(あるいは提言)されたものにすぎない。Webの世界で起こったような変化が、企業情報システムというセグメントでも起こるだろうということは、Web 2.0という現実を目の当たりにしている以上、それほど説得力がない話でもない。しかし、その変化が企業情報システムにおいて具体的にどのような形で定着し、波及していくのかを考え始めると、途端にエンタープライズ2.0の「現実感のなさ」を思い知らされることになる。企業内ブログ、エンタープライズマッシュアップ、エンタープライズサーチ……など、Web 2.0から容易に連想できることが語られてはいるものの、それらが本当に企業情報システムのあるべき姿なのかどうかは、正直なところ分からない。そうした手法によって、これまでにない力を発揮する企業が現れて業界を席巻するような現実が現れるまでは、「半疑」の思いをぬぐい去ることはできないのだろう。

 もっとも私自身は、情報システムが変わるというよりも、企業という組織のあり方そのものが変わっていくということのほうに、切迫した現実感を感じてもいる。企業という組織のあり方が変われば、必然的に企業にとって必要な情報システムというものも変わっていくはず――そういうロジックのほうが腑に落ちるような気もするのである。

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