[市場動向]

新時代のM2Mを知る─モノが情報発信源となる新たな価値観

M2Mを理解する Part1

2012年1月31日(火)力竹 尚子(IT Leaders編集部)

これまで特定用途に限られていたM2Mの適用範囲が、 通信モジュールの低価格化やセンサー技術の進化を背景に急激に広がろうとしている。 M2Mにより、あらゆるものがネットワークにつながり、データを発信するようになる。 それはユーザー企業にどのような可能性を拓くのか。

機器の振る舞いをセンシングし、そのデータをネットワーク経由で収集。業務に役立てようというM2M(Machine to Machine)への動きが活発化している。と言っても、M2Mは決して新しい概念ではない。建機やエレベータの稼働状況を遠隔監視するといった用途を中心に、10年ほど前からすでに実用が進んでいる。

ではなぜ今、改めてM2Mなのか。背景の1つは、通信モジュールの低価格化が進み、導入しやすくなったことだ。これまで、通信モジュールの価格は1台当たり2万〜3万円と高く、高額な機器でないとコスト的に見合わなかった。しかし、ここ数年でそうした状況は解消されつつある。モジュール単価は現在、1万円前後。今後さらにこうした傾向は進行し、数年後には1モジュールあたりの価格は数千円にまで下がるという見方が一般的だ。そうなれば、低額かつ大量の機器への搭載が容易になり、M2Mの普及に弾みがつくことは間違いない。

M2Mが脚光を浴びるもう1つの背景に、センサー技術の向上がある。収集できるデータの種類が格段に増え、単なる遠隔監視を超えたより高度なビジネス利用の道が見えてきた。ガートナー ジャパンリサーチ部門テクノロジ&サービス・プロバイダーの田﨑堅志バイスプレジデントは「流量や温度センサーといった従来からある技術に加えて、位置情報や加速度を検知するセンサーなどが次々に実用化されてきている」と指摘する。「各種センサーが発信するデータは、企業にとって宝の山。様々な種類のセンシングデータを組み合わせて価値を見出すことにより、新たなサービスを創出できる。M2Mは、経済の成熟を乗り越えるために不可欠なインフラになる」(同氏)。

配送中の荷物が位置情報を自ら発信

こうした流れにいち早く乗り、成果を出しているのがヤマトシステム開発だ。同社は2005年、「e-ネコセキュリティBOX」を提供開始した(図1-1)。これは、通信やGPSチップなどを搭載。ネットワーク経由の監視や開閉ログの取得といったセキュリティ機能を持たせた専用ボックスをレンタルする法人向けサービスである。

図1-1 ヤマトシステム開発が提供しているe-ネコセキュリティBOXの仕組み
図1-1 ヤマトシステム開発が提供しているe-ネコセキュリティBOXの仕組み

開錠もネットワーク越しだ。ボックスには鍵穴がない。鍵の代わりに用いるのは、携帯電話かWebによる認証である。受取人は、荷主が事前に番号を登録した携帯電話からセンターに電話をかけるか、Web画面からIDとパスワードを入力し、認証を受ける。認証が完了すると、センターのサーバーからボックスに対して開錠信号が自動送信され、開箱可能になる。

顧客はこのボックスを利用することにより、配送業者に託した荷物の位置情報をリアルタイムに追跡できるほか、受取人を限定できる。ボックスの開閉ログもメールで受け取れる。「貴重品や機密情報を含む品物の配送を依頼する荷主にとって『いつ、どこで誰が荷物を開けたか』という情報は非常に価値が高い」(ヤマトシステム開発 セキュアトレースカンパニーの槇裕史プレジデント)。2011年には、電波の届きにくい地下などでの利便性を高めるため、ICカードによる認証機能を追加した。さらに、温度センサー付きのボックスも投入。現在、レンタル中のボックスは2000近くに上る。「このサービスを入り口に、ヤマトグループ内の別のサービス利用に至る顧客は多い」(同氏)。

M2Mをサービス拡充に生かしている先進事例をもう1つ挙げよう。JR東日本ウォータービジネスが2010年8月からJR駅構内において展開している「次世代自動販売機」は、搭載したカメラセンサーで利用者の年代や性別といった属性を判定。サーバーから高速無線通信網を通じて配信されるリコメンド用DBとマッチングし、お薦め商品をディスプレイ上に表示する(図1-2)。さらに、センサーで取得した顧客属性とPOS情報をサーバーに送信。サーバーはそれらを集約・分析してDBを更新し、自販機に配信する。利用者がいないときに、時刻や季節に合わせた広告を表示する機能も備える。現在、品川駅や東京駅などで約100台が稼働中だ。

図1-1 ヤマトシステム開発が提供しているe-ネコセキュリティBOXの仕組み
図1-2 JR東日本ウォータービジネスが展開している次世代自動販売機

自社サービスの拡充に向けた既存企業の取り組みのほか、M2Mそのものをビジネスの中核に据えるベンチャー企業もある。アートデータは、冷蔵庫に取り付けるセンサーを開発。その開閉データをネットワークで収集することにより、居住者の安否を遠隔地から確認できるサービスを提供している。

「M2Mは、日本のものづくりを復権する起爆剤になる」。そう期待を寄せるのは、バレイキャンパスジャパンの飯田秀正社長/CEOだ。「M2M 技術により、日本製の機器は新たな顧客サービスを生み出せる」。同社は、JAVAやAndroidといったオープン技術を駆使したセンサーやゲートウェイを開発。ベンチャー企業がより安価にM2Mサービスを始めるための基盤提供を急いでいる。

人手を介さない究極の“デジタルエンタープライズ”へ

M2Mは、企業ITのあり方に変化をもたらす。M2Mに関する情報交換や人材育成を目的とするNPO法人であるM2M研究会の小泉寿男理事長は「近い将来、製品や工場内の製造機器、販売什器などに取り付けたセンサーが発信するデータを社内のERPやCRMシステムにそのまま取り込めるようになる」と予測。副理事長の吉田利夫氏は「人でなくモノが発信・入力するデータに基づき業務が回る。M2Mによって、“デジタルエンタープライズ”がいよいよ現実化する」と見る。

しかしそれには、M2Mを企業ITのなかでどう位置づけるかというグランドデザインが不可欠だ。それを欠如させたまま、ユーザー任せの個別の取り組みを看過しては、企業IT全体が混乱に陥りかねない。

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