【Special】

WhatからHowへ。日本IBMのエバンジェリストが語る「IoTの今」

2014年3月17日(月)

Internet of Things(IoT)やM2M(Machine to Machine)というキーワードが象徴するように、モノ同士が会話を始める時代が本格的に幕開けようとしている。10年後には年に1兆を超えるセンサーが出荷されるという予測もある中で、それらをつなぐネットワークはどうあるべきなのか。ビジネスは、そして世界はIoTでいかに変わっていくのか。IoTの普及と技術革新に注力する日本IBMの2人のキーマンに話を聞いた。(聞き手はIT Leaders編集部、文中敬称略)

IBM MQTT MessageSight

IoTとビジネスの距離がぐっと近くなってきた

─様々な“モノ”同士がネットでつながるIoTやM2M。ユーザー企業の関心なり動きなりで、何らかの変化を感じますか。

鈴木:IoTもM2Mも、言葉の意味をお客様にあらためて説明することはほとんどなくなりました。話の中にごく普通に出てきます。この1年ほどで、ずいぶんと認知度が上がったなぁと感じます。

日本IBM ソフトウェア事業
WebSphere事業部
パートナー営業部 部長
小林昌利氏

小林:言葉の理解にとどまらず、実際のビジネスとしてIoTに取り組み始める例も増えてきましたね。関連するセミナーや勉強会を開催するとすぐに満席になるほどで、関心の強さを実感します。実は、これまで弊社と深いお付き合いがなかったデバイスやセンサーのメーカーさんとか、医療や農業といった分野のお客様からの問い合わせも増えてまして…。その点では、ビジネスチャンスも広がっていると言えるでしょうか。

IT部門よりも、むしろ事業部門の方々が注目しているようにも見受けられます。現場で日々ビジネスを動かしている立場から、IoTの可能性を“B2M(Business to Machine)”としてポジティブに評価しているという印象です。

鈴木:単純な処理を繰り返す装置同士をつなごうとの発想は以前からありましたが、昨今の技術進歩で、IoTでは今までできなかったことが可能になる、あるいは大きく改善できるようになるという理解が進んでいるのではないでしょうか。

スマートフォンをクルマのリモコンと位置づけてドライブに新しい楽しさを付加する。体温や人の動きを感じるセンサーと組み合わせて安全・安心を広げたり、効率的なエネルギーの使用を促してエコな生活を実現したいする…。ビジネスの最前線に立っているお客様ほど、IoT利活用の具体的な姿をありありとイメージできるのかもしれません。

小林:テクノロジー動向に敏感なお客様は、IoTはインターネットと同じように、社会にとってなくてはならないインフラになると見ているようですね。

鈴木:まさにその通りで、IoTはやるかやらないかではなく、何をどうつなぐか・どう活かすかを具体的に考えるというフェーズにすでに入ったと感じます。

IoTは、従来のシステムでコンピュータにアクセスしていた「ヒト」を「モノ」へ置き換えようという取り組みではなく、大量のモノが直接インターネットを経由して情報をやり取りできるようになると考えることで、その大量性や双方向性、1対多、多対多などの独自性を活かした活用術が見えてくるのではと思います。

パブリッシュ&サブスクライブ、トピック仲介が必然となる理由

─今まで一般的だった技術だけでは必ずしもカバーできないわけですね。

小林:やはり、これまでのHTTPをベースでIoTを考えると必然的に限界が見えてきます。お客様からのご相談案件でも、セキュリティや信頼性の観点で不十分さを指摘する声が増えてきています。

鈴木:HTTPは優れたプロトコルですが、ヒトがマウスをクリックしてサーバーへアクセスする、というようなWebのための技術として進化してきた経緯があります。数千、数万といった大量のデバイスがつながってくるIoTでは、その全端末と同期通信であるHTTPで接続するというのは、事実上あまり現実的ではないというのが一般的な認識と思います。もちろん不可能ではありませんが、ネットワークやサーバー資源の使用に無駄が多く、またIoTで典型的に見られる1対多や多対1の通信や、デバイスへのプッシュによる双方向通信の実現などには無駄な部分も多いことが知られています。

─IoTに適したプロトコルに必要な機能とは何でしょうか。

日本IBM ソフトウェア事業
WebSphere事業部
テクニカル・セールス&ソリューションズ
鈴木徹氏

鈴木:千や万といった単位の装置と通信するにはメッセージングと呼ばれる非同期のプロトコルが適していると考えられています。同時にビジネスの上で必須となるセキュリティや信頼性についても担保されることが要件となります。

IoTの世界では、センサーなどで検知されたイベントをトリガーにinternetを経由して処理が起動される「イベントドリブン」の発想がユニークだと思いますが、このイベントドリブンな動きを有効に活用する上でパブリッシュ/サブスクライブ、略称でパブサブと呼ばれる機能が有効であることが知られています。IoTに適したプロトコルを検討する上で、このパブサブの機能、さらに前出の非同期、そして疎結合、双方向性といった機能がキーワードになると考えています。

●IoTに適したプロトコルを検討する上でのポイント


  • パブリッシュ/サブスクライブを活かしたビジネス適用可能性を考えてみる
  • 非同期性、疎結合性、非依存性を活かしたビジネス適用可能性を考えてみる
  • イベントドリブン性をを活かしたビジネス適用可能性を考えてみる

 

小林:1対1の接続が当然のHTTPに慣れたお客様にとって、パブサブの概念は非常に新鮮に映るようです。

鈴木:パブサブの特徴として、データを発信する側も受信する側も、自分の都合で“勝手に”やる、という言い方もできると思います。従来型のHTTPによる緊密結合での設計・開発の硬直性の限界に対し、パブサブの発想はTwitterなどソーシャルネットワークの仕組みに近いかもしれません。誰がどんな情報を出す(パブリッシュする)かは発信側の自由であり、その情報をフォロー(サブスクライブ)するかしないかは受信側の自由です。これによって、はじめから設計が決まっている1対1の通信と異なり、1対多、さらには多対多でつながる柔軟性が広がっていくようになります。

小林:このあたりは、分かりそうで分からないという声をよく耳にします。膨大な数のデバイスやセンサーからデータが発生する中で、パブリッシュとサブスクライブをどう成立させるんだ?と。ここでは、ネット上で何を話題にするかが鍵になります。

鈴木:そうです。その両者の会話の仲立ちとなるのがトピックで、このトピックを通してパブリッシャーとサブスクライバがゆるく疎結合することで、既存の常識にはとらわれない送り手と受け手のマッチングが生まれやすくなります。

例えば、レタスやサンマのような鮮度に敏感な食材では生産者の方は収穫時期に気を遣われますが、市場価格をトピックに卸業者とパブサブすることで最適な出荷時期を判断できるようになります。またオンラインでの多人数の対戦ゲームや双方向性ゲームなど、トピックを介して参加者が双方向に非同期パブサブを繰り返す使い方も一般的になりつつあります。もちろんビジネスに必要な高信頼性、高セキュリティの1対1のトラフィックをパブサブで実装しているケースも数多くあります。

●パブリッシュ/サブスクライブ型通信モデル

<送信プログラムと受信プラグラムが“トピック”を介して1対Nで通信する>
  • 送信側(パブリッシャー)が受信側(サブスクライバー)を意識せずにデータ送受信する
  • サブスクライバーは受信したいトピックにサブスクライブ(購読)登録を行う
  • パブリッシャーは、送信したいデータをトピックに対してパブリッシュ(送信)する
  • 両者の間には必ずPub/Subブローカーが介在し、データの管理、配信を行う

 

─確かに、疎結合の考え方を持ち込まないと、処理を完結できないトラフィックが溢れることにもつながりますよね。

小林:つながりたいときにつながる、不要になったら切断する、パブリッシャーとサブスクライバの共通項はトピックだけ。こういうゆるやかなネットワークにしておかないと機能しないんです。がんじがらめで常にコンピューティングリソースと紐付いているということがない分、何だかエコな感じもしますでしょ?(笑)

鈴木:その通りで、非同期、疎結合のパブサブはまさしくエコで柔軟な接続を実現するんです。従来からのお作法でリアルタイム接続している処理でも、実は秒単位で構わないケースがたくさん存在します。例えば、地下鉄に乗っているときは、駅と駅の間では通信が一旦途切れることも多いけれど、次の駅に着いたら必ずつながる。そういう非同期な通信でも十分に事足りるわけです。ただし、必ずデータが届くことを保証することが欠かせません。これは手動では管理しきれない膨大なデバイスとデータを扱うIoTだからこそ、重要なポイントと言えます。

この非同期性・疎結合性はアプリの機能にとどまらず、クライアントとサーバーのアプリ開発の非依存性、システム運用や保守の柔軟性、さらにはトピックを通した長期的な互換性の容易な実現など、エコで使いやすい、少しリラックスした感じのシステムの実現にも貢献しています。

「モノ」の向こう側にいる「ヒト」は誰なのか

─先に伺った「IoTに必要な3つの特徴」を備えた具体的な製品について話をお聞かせください。

小林:IoTやM2Mの世界を最適化させるプロトコルとしてMQTTがあります(詳細は「HTTPからMQTTへ - IBMが提唱するモノとモノがつながる時代に最適化したプロトコル&アプライアンス」を参照)。多くのお客様から非常に強い関心をいただいています。HTTPと設計思想が異なるのはもちろんですが、デバイス間通信でよく聞くRFIDとも違って、機器が“自ら会話できる”という点に興味を持たれる方が多いですね。この特徴を活かして、例えば工場のベルトコンベアのパレットにセンサーを設置して生産ラインの最適化を図ろうとしているお客様の事例などもあります。

疎結合なので変更が自在にできるという点もご評価いただいています。MQTTを使ったシステム構築を支えるアプライアンス「IBM MessageSight」も同様にご興味を持たれるお客様が増えてきました。

鈴木:今年の冬は大雪による被害が相次ぎ、物流に大きな損害が出たと報じられましたが、こういうときこそMQTTを活用してほしいと本当に思いました。一度決めたルートを変更するのは物流の世界ではなかなか難しいと伺っていますが、ネットワーク品質が厳しい状況でもモノとモノをつなぐMQTTの双方向・疎結合通信を活かして被害現場の欠品状況の共有や臨機応変な配送ルートの最適化などに活かしてもらえれば、と思いました。

小林:IoTはモノとモノの接続といっても、モノの向こう側にいる人は誰なのか、誰にその情報を届けようとしているのかによってつなぎ方のバリエーションはいくらでも拡がっていきますね。モノとモノをつなぐことで、結局は人と人をつなぎ、世の中を良くしていく技術だと思います。

鈴木:ソーシャルネットワークの隆盛により、人と人がつながって情報をやり取りすることで価値が生み出されることが再認識されました。これにIoTのネットワークをつなぎ、人と人、モノと人、モノとモノのネットワークが相互に触発しあうやり取りの中で、これまでITとはあまり縁がないと思われていた匠の技、一子相伝と言われていたような技術や遠く離れた国の人々を結んだ技術のネットワークなど、MQTTのような道具を活かして新しい価値を作り出していく未来も遠くないうちに実現できるのではと信じています。IoTのポテンシャルの大きさを、是非、多くの方々に知ってほしいと願っています。

IBM MQTT MessageSight

WhatからHowへ。日本IBMのエバンジェリストが語る「IoTの今」Internet of Things(IoT)やM2M(Machine to Machine)というキーワードが象徴するように、モノ同士が会話を始める時代が本格的に幕開けようとしている。10年後には年に1兆を超えるセンサーが出荷されるという予測もある中で、それらをつなぐネットワークはどうあるべきなのか。ビジネスは、そして世界はIoTでいかに変わっていくのか。IoTの普及と技術革新に注力する日本IBMの2人のキーマンに話を聞いた。(聞き手はIT Leaders編集部、文中敬称略)

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